福岡高等裁判所 昭和26年(う)1001号 判決
食糧確保臨時措置法第五条以下の各規定によれば、市町村長が同法第五条の規定によつて定めた生産者別の農業計画に係る供出数量に異議ある生産者は、法定の期間内に異議を申立てることができるわけであつて、その期間内に異議の申立がない場合又はその異議に対し決定があつた場合に、市町村長が生産者に対し当該農業計画を指示したときは、その農業計画に定められた供出数量がその生産者の政府に売渡すべき農産物の数量となるのであつて、生産者はその数量の確保に努むる責任があり、該生産者の供出すべき数量はこゝに確定するのである。もつとも、その後災害その他真にやむを得ない事由により、その指示に係る農業計画に定められた供出数量に相当する農産物を供出することができなくなつたときは、市町村長に対し法定の期間内に供出数量の変更を請求することができるけれども、その請求によつて供出数量変更の決定がなされなければその数量に変更を来さないのは勿論であつて、又その請求によつて所定の供出時期が猶予されるものでもなくただ食糧緊急措置令第一条の規定による強制収用の処分が一時猶予されるに過ぎない。従つて市町村長が食糧確保臨時措置法第五条の規定により農業計画を生産者に指示したときは、災害その他真にやむを得ない事由により供出数量を変更する決定がなされない限り、たとい生産者がその指示に係る農業計画に定められた供出数量に相当する農産物を供出することによつて、その生産者の所定の自家保有量を確保することができなくなるとしても該生産者の当該年度における生産数量の範囲内において自家保有量に優先して供出数量に相当する農産物を都道府県知事の定めた時期までに政府に売渡すべき義務があるものといわねばならない。
もしその供出の結果生産者の自家保有量に不足を来した場合には、還元配給を受けることもできるわけであるから、自ら不正をなさず誠実に供出を履行した生産者をして飢餓に泣かしめる憂いはないのである。所論は原判決の事実認定は誤認であるというけれども、それは、敍上の説明に反して、生産数量から先ず生産者の自家保有量を控除した残量の範囲内で供出すれば足りるという独自の見解を前提として原判決の事実認定を非難するものであつて、その前提の採るべからざることは既に説明したところによつて明らかであるから論旨は理由がない。